ようこそ革命シネマへ
原題:TALKING ABOUT TREES
2019年 フランス スーダン ドイツ チャド カタール
監督:スハイブ・ガスメルバリ
上映時間:97分
鑑賞日:2020/7/26
劇場:シネマ・ジャックアンドベティ
今まで嗜んできた楽しみが抑圧されたら…。
それも政治的な理由で私達の楽しみが奪われたらと考えると、どこに怒りをぶつけたらいいのかこの平和な日本に住んでいると全く理解できないものです。
ちょうど世界がコロナウイルスという未知の病原体に冒されてから数か月、みどりもこのにっくきウイルスにいくつもの楽しみを奪われました。
海外旅行、フェスをはじめとした音楽ライブ、高齢者と同居している友人とは感染リスクの懸念から未だにお酒を楽しむ事もできません。
それとこれとを比較するのはナンセンスだと思うのですが、この『ようこそ革命シネマへ』に登場する四人の映画人達の気持ちを理解するにはあまりにもタイムリーだと感じたのです。
あらすじ
2015年、スーダンの首都ハルツーム近郊。電力が安定しないこの地で停電が復旧しない中、イブラヒム、スレイマン、マナル、エルタイブの四人は暗闇に乗じて映画撮影の真似事を始める。それはアメリカ映画史に残る傑作「サンセット大通り」の名ラストシーンだった。
そろそろ70歳を迎えようとしている四人は、1960~70年代に海外で映画を学び、母国スーダンで映画作家として活躍していた45年来の友人だ。1989年に映画制作集団「スーダン・フィルム・グループ」を設立するが、同年、クーデターにより独裁政権が誕生、表現の自由も奪われてしまう。
長らく離散していた四人だったが、母国に戻り再開を果たす。しかし、すでに映画産業は崩壊し、かつてあった映画館もなくなっていた…。
主要キャスト
イブラヒム・シャダッド
1945年生まれ。ドイツのポツダム映画・テレビ大学を卒業。
エジプトとカナダで亡命生活を送ったのちスーダンへ帰国。
スレイマン・イブラヒム
1947年生まれ。モスクワでドキュメンタリー制作について学ぶ。
1979年、モスクワ国際映画祭にて短編「It still rotates」で銀賞を受賞。
エルタイブ・マフディ
1951年生まれ。アート系の短編を制作。寡黙だが勇敢さで機転を利かせる。
マナル・アルヒロ
1948年生まれ。スーダンで製作された友人たちの全作品のプロダクションに関わる。
見どころ
ドキュメンタリーらしからぬ没入感
初めにおことわりしますが、本作はドキュメンタリー映画でして、映像は全て実際にそこで起こっている事が収められています。
しかし!みどりは本作をドキュメンタリーとして観るのではなく、いつものように肩の力を抜いてプロットを追うスタイルで鑑賞する事をお勧めします。
理由は、初めから脚本があるのではないかと思うほど登場人物の方々のセリフが生きていて、ストーリーの流れも自然なんですよねぇ。
突然実際のニュース映像が差し込まれたり、緊迫するシーン(多少ありますが…)もほぼ無いのです。
それらを期待される方は少し肩透かしを喰らいそうですが、本作においてはそれが実に気持ちいい没入感を醸しだしています。
監督こだわりの措置
本編が進んでいて誰もが途中で気づく事、それは劇中BGMが全く無いのです。
朝の風景、鶏の鳴き声とともに段々生活音が増していく街、イスラム教の礼拝時間を知らせるアナウンス音声等、BGMを排除した事によって丸裸の街を感じる事ができます。
こうして観るととてものどかでいい場所のように思えるんですがねぇ…。
まとめと総評
奪われた自分たちの生きがい『映画』というカルチャーをもう一度!
奔走する4人の老いた映画人達の気力は若々しく、年齢を感じさせないバイタリティに溢れています。
それでも後先関係なく無鉄砲な事をするわけでもなく、どちらかというとルールに沿って冷静に行動していく。これが大人の風格というものではないでしょうか。
いつも笑顔で好きな事に情熱を燃やしている彼らはとっても朗らかなんです。
電車でぶつかってきたくらいでいちいち苛立っているみどりは、この4人を見習わなくてはいけませんねぇ。
という訳で評価は、、、
☆☆☆
努力と情熱は裏切らないが時に残酷でもある。そんな想いを鑑賞後に沸き上がりました。