七人の侍 4kデジタルリマスター版
1954年 日本
監督:黒澤明
上映時間:207分
鑑賞日:2020/2/24
劇場:シネプレックス平塚
皆さんは劇場デビュー作を覚えていらっしゃいますか?そう、生まれて初めてスクリーンで鑑賞した作品です。
支配人みどりの父はすこ~しだけ変わっておりまして、子供に全く忖度しない父親だったのです。そしてその父も映画と音楽が大好き。自分の観たい映画に連れていき、自分の聞きたい音楽のレコードをみどりに買い与えていました。
今となってはそんな父の行動に感謝しています。何せ2歳からほぼ今と同じ感覚で好きな作品を追いかける感性が身についたのですからねぇ。
何かと長期の休み明けには、家族で何をして過ごしたかがクラスの話題となっていた小学生時代、当時は映画に行くのはちょっぴり大人じみた娯楽。それでも級友が鑑賞した作品は「東映まんがまつり」だったり「がんばれタブチくん」といったアニメ作品。
ジブリやピクサーが台頭する10年以上前の話です。
担任の先生が「映画を観た人は何を観ましたか~?」の質問には、皆上記のアニメ作品を挙げていてみどりは羨ましくも思ったりしました。
「みどりくんは何を観たの?」と聞かれ、出した答えは
「ナ、『ナイル殺人事件』を観ました…」
とはにかみながら答える幼年期のみどり。
当時の子供達の至上の選択肢であるアニメ作品と全く無縁だったみどりが生まれて初めて劇場で鑑賞した作品は何を隠そうこの「七人の侍」だったのです。
そのじぶん齢2歳の話。
これでも当時の名画座での再映です。一応ことわっておきます。
何せ物心つく以前の話で、当然内容など理解するはずもないのですが、何にでもすぐに飽きて駄々をこねる子供が、上映中大人しく父の膝に座って銀幕に目を奪われていたそうです。
そして大人になって、一度見直そうと思い当時のビデオレンタルショップで借りて鑑賞しました。まあしっかり内容を理解して観た本作は本当に衝撃的でしたね。子供の頃のすりこみとは恐ろしいもので、ところどころのシーンを覚えているのですよ。
特にみどりが一番のお気に入りのシーン、クライマックスの野武士との死闘で、豪雨の中勘兵衛が弓を射るシーン。なんか構図も含めて脳に焼き付いていたそうで、はっきりと覚えていました。
さらに時は流れ、令和の時代。「午前十時の映画祭」という素敵な企画が全国の映画館で開催されました。その中で「七人の侍」が4Kデジタルリマスター版で上映すると知って早速観てきました。もの凄く長い前置きでしたが、あらすじからどうぞ!
あらすじ
野武士が駆る馬の蹄の音に怯えていた時代。
40騎程の野武士の集団が、眼下に広がる農村に狙いを定めていた。
「やるか…この村も」
「待て、ココは去年の秋に襲ったばかりだし、今行っても何もあるめぇ」
「よし、あの麦が実ったらまた来るべえよ」
不穏な会話を隠れて聞いていたこの村の農夫は長老(高堂国典)に知らせに走った。
野武士の襲来に怯えて暮らす農民達、戦っても万に一つの勝ち目も無い事を解っていても、若い利吉(土屋嘉男)は『抵抗』する事を望んでいた。
長老が出した回答は、
「やるべし」
話によると、野武士の襲来でことごとく焼き払われた村が大半を占めていた中、残った村は全て侍を雇っていた村だったという。
必ずいるはずだ。腹をすかした侍が…。
報酬は腹いっぱいの米。誇り高き侍達がこんな施しで命をかけて村を守ってくれるだろうか?しかし利吉達に迷っている時間は無い。大量の米を担ぎ、利吉達は侍のスカウトに出かけるのであった。
主要キャスト
勘兵衛:志村喬
幼子を人質に取った強盗事件を見事に解決した場面を利吉達に目撃され、村の護衛にと懇願される。初めは断るが、彼らの熱心な願いと、それを見ていた同宿の人足達の説得もあり承諾する。
勝四郎:木村功
侍の中でも一番年少。勘兵衛の強盗解決に居合わせて、彼に弟子入りを願う。
七郎次:加東大介
勘兵衛は彼の事を「古女房」と呼ぶ。戦時での彼の部下。彼の戦でのポリシーは、
「攻めるときも、退くときも走ることにあり、走れなくなったときは死ぬときだ」
久蔵:宮口精二
己を叩き上げる。人間一生修行だと思っている侍。恐らくメンバーの中で一番の剣豪。
危険な任務も自ら名乗り出て結果を残す。若い勝四郎もそんな久蔵の背中に漢を感じていた。
五郎兵衛:稲葉義男
今回の任務には農民の手助けというよりも、勘兵衛の人柄に惹かれて参加した人情肌。
勘兵衛が発案した、物陰に隠れて勝四郎が棒で打ち込むという適正テストも、勝四郎が隠れていた場所の数歩手前で「御冗談を」と微笑みながら立ち止まり難なくパス。
平八:千秋実
腕はまず中の下。メンバーの中ではムードメーカー。苦しい時は何かと重宝すると五郎兵衛が推して参加する。
菊千代:三船敏郎
彼は本当の名を知らない。時に武士生活そのものを否定する野生児。農民の苦悩は全て知り尽くしているが、そんな臆病な農民も忌み嫌っている。
利吉:土屋嘉男
野武士討伐に一番燃えている若い農夫。野武士にはただならぬ恨みがある。
志乃:津島恵子
父万造が娘を野武士から守る為に、無理やり男装をさせられている。勝四郎と恋に落ちる。
見どころ
豪雨の決闘
今更改めて説明するのも照れてしまうほどのシークエンス。あくまで当記事は「七人の侍」を観た事無い方向けにご説明しますね。
クライマックスの野武士との決戦のシーン。激しい豪雨の中で撮影されたのですが、実はこの雨には墨汁が混じっています。これは黒澤監督が雨の激しさを顕著に表す為に採用したアイデア。そのせいで消防車7台から放出されたこの雨は“重かった”らしいです。
そして冒頭で話しました勘兵衛が弓を射るシーンは、本当にカッコいい!!
10回巻き戻して観ても飽きない程ですよ!!
そしてここでのもう一つのエピソードは、このシーンが撮影されたのは氷もはる3月上旬で、演者もスタッフも水浸し。黒澤監督もずぶ濡れになりながらの演技指導。しかし誰一人風邪をひく人はいなかったという事です。それだけ全員がアドレナリンを放出しながら撮影されたからこそ、あそこまで鬼気迫ったシーンが完成されたのですね。
凄い話です…。
さらに、なぜ天候を豪雨にしたのかは、当時の西部劇はカラカラに乾いた砂交じりの場所で撮られていたので、本作は逆にしたかったから。凄いセンスだなぁ…。
久蔵が種子島を奪い、帰ってくるシーン
黒澤監督はどこまで時代を先取っていたのか空恐ろしくもあるシーン。
敵の戦力であった火縄銃。とりあえずこの脅威を奪うことで、戦況が大きく変わると判断した侍達は奪還作戦を決行します。
際立った殺陣は全く無いのですが、久蔵が陣地に乗り込み、帰ってくるまでの時間軸、そして印象的な霧深い森から何事も無かったように皆の元に帰ってくる演出。
アクションが無いだけに、観客に現地で何が起こったのか、また久蔵という剣豪の強さと人間力を全く同じアングルで、かつ簡潔に想像させる見事なシーンだと思います。
繰り返しますが、1954年にこのシークエンスを完成させたのです。
瞬間に妥協しない黒澤イズム
前半の侍スカウトのシーン。誰にしようか町を歩いている侍達を利吉達が見物しているシーンに4秒だけ、当時駆け出しだった仲代達矢さんが町を歩く侍役で出ています。
そのわずかなシーンだけで何日もリハーサルを重ね、仲代達矢さんは草履で足が血だらけになったそうです。
そして五郎兵衛の「御冗談を」の一言も何テイク撮ったか解らなくなるほどで、稲葉義男さんは半ばノイローゼになった話もありますね。
みどりが必ず泣いてしまうシーンを最後に、それは勘兵衛が農民の依頼を受ける場面、
「この飯、おいそれとは食わんぞ!」
是非本編でご確認ください!
まとめと総評
撮影期間:1年
制作費:2億1千万円
出動人員:3万3千人
馬頭数:2300頭
使用フィルム:13万フィート
制作費だけで当時の映画7本分だったとの事。
もう色々伝説があり過ぎて、こんな駄文記事で片付けるには恐れ多いですが、みどりはこの作品をこよなく愛しているのです。
あ、北野武監督がよく笑い話に話されている、
「あの電柱邪魔だなぁ、どかせ!」
のエピソードは「七人の侍」での出来事です。
もうこの作品が無ければ、スピルバーグはあんなにヒットを飛ばす作品を世に出せなかったし、コッポラは「ゴッドファーザー」をあそこまで面白く描けなかっただろうし、ルーカスも「スターウォーズ」を撮れなかったかもしれない程、現代の映画に影響を与えていますよねぇ。「スターウォーズ」シリーズの“ジェダイ”という言葉は、黒澤時代劇の熱烈ファンだったルーカスが「時代→ジダイ→ジェダイ」から編み出したのはこれまた有名な話。
もう本当に評価なんて大それたことをするなんておこがましいですが、、、
殿堂入り
という形で終わりにしたいと思います。
恐らく日本、いや世界、いや地球最後の日まで人々を魅了するであろうこの作品を一度は鑑賞してみて下さい!
今回の映画祭で公開された作品解説のムック。どれも名作揃いで、作品を愛するライターさんの熱が伝わります↓