カツベン!
2019年 日本
監督:周防正行
昨年末くらいに知人から浅田次郎の「天切り松 闇語り」シリーズを勧められまして、ずっと読んでいました。
そこでみどりに大正ロマンブームが押し寄せてきましてね。
もう楽天やAmazonでインパネスコートがいくらなのかと、ソフト帽のおしゃれな被り方などを検索しだす始末。
実は本作は全く観る予定ではなかったのですが、その大正ロマンブーム到来に加え、愛聴しているFMヨコハマ「Tresen」で周防監督が本作の宣伝に来られていたのです。そこで仰っていたのが、
「映画黎明期の無声映画時代、世界広しといえど日本だけは活動弁士の存在があったゆえ、『完全な無声映画時代』はひと時としてなかった」
この説明だけで本作に対する興味が洪水のように押し寄せてきたのです。
ではあらすじから、
あらすじ
映画がまだ「活動写真」と呼ばれていた時代のお話。
染谷俊太郎(成田凌)はニセ弁士として泥棒一味の片棒を担いでいた。ある日、そんなくすぶっている日常に嫌気が差した染谷は、一味から逃亡。そして閑古鳥が鳴いていた小さな町の映画館<青木館>に流れつく。その映画館は今では隣町のライバル映画館に客も人手も引き抜かれ風前の灯火であった。そんな青木館で職を得た染谷は、遂に本物の活動弁士になれると期待に胸を膨らます。人使いの荒い館主夫婦や、クセの強い先輩弁士達に揉まれながら着実に弁士としてのキャリアを積んでいく染谷の前に現れたのは、幼い頃に離れ離れになった初恋の女性だった…。
山田洋二監督と周防監督の対談は読みごたえありました↓
キャスト
染谷俊太郎:成田凌
子供の頃から活動弁士に憧れていた青年。
栗原梅子:黒島結奈
染谷の幼馴染みで初恋の相手。現在は女優をしている。
山岡秋聲:永瀬正敏
青木館の弁士。「活動弁士」の衰退をいち早く感じ取った敏感肌。
青木富夫:竹中直人
青木館館主
見どころ
成田凌と黒島結奈の弁スゲー
劇中、活動弁士達の仕事ぶりが垣間見えるのですが、実際に役でこの二人の弁がとにかく凄いのです。まずは中編で披露される「火車お千」という作品で披露される染谷と梅子の掛け合いのシーン。全くの無声映画に命を吹き込む二人の息はピッタリ。
そしてクライマックスの染谷の弁は、田口浩正さん他演じる、楽器を奏でる楽師達とのコラボもありもう鳥肌モノ!極上のアクションシーンを観たようなアドレナリンが湧き出る事山の如しですぞ!
実はほぼオリジナルの無声映画
本編で白黒の無声映画がいくつか流れるのですが、1925年の『雄呂血』(「おろち」と読みます)以外は全て撮りおろしのオリジナル。これが実に完成度が高い!
出演している俳優陣も豪華で、草刈民代、上白石萌音、城田優、シャーロット・ケイト・フォックスまでもがカメオ出演。全て解った方は相当な芸能通でしょうな。
永瀬正敏演じる山岡の苦悩
みどりが本作で一番心に刺さったのがこの山岡という弁士の存在でした。彼は時代が無声映画から、実際にサウンドがフィルムと同時に流れる『トーキー』という世代に移り変わっていって、やがて活動弁士という職は廃れていく事を誰よりも早く感じとっていたのです。そんな山岡の先見の明を、現代のAIの台頭と重ねてしまいましたよ。
まとめと総評
周防監督作品て、こう我々が知らない世界を実に解りやすく教えてくれる教科書のような作品だと思っていまして、昔の伊丹十三作品に近いものだと思うんですよね。
「マルサの女」で脱税のイロハを知る事ができ、「スーパーの女」なんて未だに買い物する時に映画で得た知識を駆使していますもん(笑)。「Shall we ダンス?」で社交ダンスの世界を知る事ができたし、「それでもボクはやってない」で痴漢冤罪の難しさを知る事ができましたよね。
その知識の供給を、実に上手にプロットに当てはめてくれているのが周防作品だと思います。
あとね、劇中に流れている「東京節」がまた作品にぴったりでしたよ。本作では「カツベン節」というタイトル詩が違うバージョンを奥田民生が歌い上げています。稀代のエンターテイナー榎本健一が歌っていたのが有名でした。
さて、本作の評価は観た人によってはっきりと意見が分かれると思います。みどりは、
☆☆☆☆
映画ファンであればあるほど楽しめる内容だと思います。
これを観たら現在でも活動されている弁士達の活躍を一度は体験したくなると思いますよ~
奥田民生版「東京節」である本作の主題歌「カツベン節」はこのアルバムでしか聴けない貴重な音源。彼らしい脱力さが日頃の疲れを忘れさせてくれます↓