ジョジョ・ラビット:原題(Jojo Rabbit)
2019年 アメリカ
監督:タイカ・ワイティティ
まず初めに本作の評価を言ってしまいますと、
☆☆☆
世間の評判と比較すると思いのほか低めの評価ではないかと思いますが、支配人みどりは本作における『ある一点』がどうしても引っかかって悩んだ挙句このようになりました。
その一点とはズバリ言語!
舞台は第二次世界大戦中のドイツなのですが、
全編英語なのです…。
そんな事どうでもいいではないかという自問自答もしましたよ。ええしましたとも。
大好きなSF大作「スターウォーズ」シリーズだって遥か彼方の銀河系のお話で、登場人物は地球人かどうかも分からないのに、ほとんどの人が英語を喋っているのは許せるのか?
とも自問しましたけども、SFと現実(本作は実話ではない)世界の舞台では考え方が違うのですなぁ。
子供の頃、『これが世界の心霊だ!』というトラウマ級に恐ろしい番組内で、故冝保愛子さんが海外の幽霊屋敷を探訪するコーナーがあったのです。
そこで台湾かどっかの幽霊屋敷に行かれた時に、突如、霊が冝保愛子さんに憑依!そこで発された言葉はまさかの日本語!
なして海外の霊が乗り移って、台湾語をしゃべらんと?
と可愛くない疑問を大人達に浴びせまくった記憶がよみがえりました。
それとこれとではいささか次元が違う気もしますが、とにかくドイツという舞台でしかも全員ドイツ人とユダヤ人という設定で英語を喋っている世界に違和感がありまくり。
とりあえずあらすじから紹介しますね。
あらすじ
10歳のジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)は特別な朝を迎えていた。
それは今日から青少年集団ヒトラーユーゲントの合宿に参加するからであった。
緊張するジョジョを励ますのは彼の架空の友人、アドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ)。彼だけがジョジョの心の支え。ナチスの信望は誰にも負けないジョジョであったが、彼の性格は誰よりも優しかった。僕には無理かも…。と弱音をはくジョジョに架空の友人アドルフは力強く励ます。
合宿の教官は戦いの中、片目を失ったキャプテンKことクレンツェンドルフ大尉(サム・ロックウェル)。少年達のハードな訓練が始まった。
二日目の朝、訓練の一環でウサギを殺せと命じられたジョジョ。しかし優しい彼はウサギを殺せず野に放ってしまう。そこで弱虫とレッテルを貼られてしまい、『ジョジョラビット』という不名誉なあだ名をつけられてしまう。そんな中でもアドルフは彼を励ます。元気を取り戻したジョジョは、張り切って手榴弾の投擲訓練をやった結果、事故が起こって大けがを負ってしまった…。
帰宅後、ジョジョのたった一人の家族である母親のロージー(スカーレット・ヨハンソン)は事故の件で事務局に猛抗議に行く。怪我が完治するまで、身体に負担のない奉仕活動をすることになった。帰ってくると、亡くなった姉のインゲの部屋で隠し扉を見つける。そこにはある少女が匿われていた!
キャスト
ジョジョ:ローマン・グリフィン・デイビス
盲目的にナチスを信望している10歳の男の子。父親は戦地で音信不通、姉を亡くしていて母親と二人で生活している。
ロージー:スカーレット・ヨハンソン
息子ジョジョを誰よりも愛していて、見かけとはうらはらに典型的な肝っ玉母さん。
そんな彼女には裏の顔があった…。
エルサ:トーマシン・マッケンジー
ロージーに助けられたユダヤ人の少女。反ナチ運動をしているフィアンセの影響で、詩人リルケが大好き。
クレンツェンドルフ大尉:サム・ロックウェル
片目を失いヒトラーユーゲントの教官に、ジョジョの事故で監督不行き届きで事務職に左遷される。ジョジョの理解者で同性愛者。実はドイツの敗戦を予感していた常識人でもある。
見どころ
風景とセットが凄くいい!
撮影地はチェコ共和国の小さな町、ジャテツとウーシュチェクという場所で撮影されました。ここは古い建物がそのまま残っているらしく、青く澄み渡る空とマッチして絵本のような風景でしたよ。
またジョジョ家の家具もアンティークファンには堪らないでしょうね。ロージーのおしゃれな服装にも注目です。
ゲシュタボ捜索のシーン
前半は『戦争』という重いテーマを描きながら、コメディタッチな演出が満載で悲惨さがこれっぽっちも読み取れません。しかし特殊警察ゲシュタボがジョジョ家に捜索するシーンから一気に物語は転調します。
ここからは心して鑑賞しましょう。
音楽がまたいいんだ!
ビートルズという超大御所の楽曲も使われている本作ですが、最も映えたのはエンディングでかかるデビッドボウイの名曲「ヒーローズ」。いや、「Helden」。
そうドイツ語バージョンなのです。
オープニングの「抱きしめたい」もドイツ語バージョンでして、サントラにはきっちり言語補正がなされているのなら、本編もドイツ語でいって欲しかった…。
とにかくこれらは貴重なトラックですぞ。
まとめと総評
この時代をテーマにした作品て結構あると思うのですが、やっぱりタランティーノ監督の「イングロリアス・バスターズ」は名作でしたよねぇ。あちらはクリストフ・ヴァルツやマイケル・ファスベンダーが喋るドイツ語がバランス良くて全く違和感が無かったです。
子供の視点から見た戦争の愚かさ。
そしてその子は様々な出会いと別れを経験して、少しずつ大人になっていくストーリーに死角は見えません。特に印象的だったのは、戦地に行く先輩兵士がジョジョに
「羨ましいだろ!俺たち英雄になってくるぜ!」
と勇猛果敢に言い放って戦地に向かったのです。
その後、彼らはボロボロになり包帯だらけでうなだれながら帰って来た光景を見た時、ジョジョは何を想ったのでしょうか。
本当にくどいようですが、全編ドイツ語であったら、早くも「フォードvsフェラーリ」に続いて満点作品となったはずなのに…。本当に惜しいです。
☆☆☆
DVDが出たら日本語吹き替えで観てみようと思います。
最後に、エルサが愛した詩人リルケの印象的な詩を、
すべてを経験せよ
美も恐怖も
生き続けよ
絶望が最後ではない
R.M.リルケ